旅の終焉 その1 あれからというもの、もう一人とは会話が出来るようになった。そこで聞いた、僕の中で母を見ていたこと。僕の記憶は全部知っていること。約束の記憶は隠したこと。こいつは僕を恨んでいるのだ。と再確認させられた。忌み子として本能に従い、里を滅ぼしたいこいつにとって僕は邪魔なのだ。僕を生かして面白がっているに過ぎない。だがそれも「神祭」までだろう。それまでに何としても約束を果たさねばならない。そう誓って目の前の雪山に登り始める。途中の小屋を立ち寄った際、老人に出会った。その老人はなんと母の祖父だという。僕がここに来るのを待っていたという。気のせいだと思っていたが、もう一人はこの山を登りたがらなかった。この老人に会いたくなかったのだろう。「よくぞここまできたな」老人が僕に言う。もう一人ではなく、僕に。「お前さんのことはよく知っている。もう一人のお前さんもな。」なぜわかるのだ?そしてなぜ僕のこともわかる?もう一人の動揺も感じた。「安心したまえ、ここがお前さんの終着点じゃ。」そう言って老人は指を僕の心臓に突き立てた。冷水をかけられたように体が冷え、意識が朦朧とする。“なぜ貴様がここにいるんだ!離せ!”そう聞こえた気がして、意識を手放した。5話-完-